集英社文庫から出ている「手塚治虫名作集⑥白縫」です。「白縫」「ブタのヘソのセレナーデ」「コラープス」「月と狼たち」「ヤジとボク」「シャミー1000」の6編が収められた短編集です。比較的シリアスな作品もあれば、若干力の抜けたような感じの作品もあり、サクサクと読み進められます。しかし、手塚治虫は本当に色々な種類の作品を描いているんだなぁと思いました。
「白縫」は作中でも言及されますが、熊本の不知火海の「しらぬい」からの着想でしょうか。私としてはなんとなく水俣病が連想されます。調べてみると白縫という言葉もあるのですね。枕詞や花魁の名前ということですが。手塚治虫は全ての「しらぬい」を知った上で「白縫の伝説」(白縫という名前の娘の伝説)を作り上げて、さらにそれにまつわるストーリーとしてこの作品を書き上げたのかな?という感じもします。さすがです。山川正夫の「朝のヨット」のような感じも少しあります。「朝のヨット」好きなんですよね・・・。
「ヤジとボク」は手塚治虫版「アルジャーノンに花束を」と言えるのではないでしょうか。似たような道具立てですが、もちろん別の物語に仕上げています。
「コラープス」は
これは いまから三十年ほど前 イギリスのホレスコット博士が チグリス川上流の古代遺跡で 発見した古文書による 物語である その異常な結末からして この物語が 事実か伝説なのかは うたがわしい ホレスコット博士は この古文書を「コラープス」と呼んだ つまり「崩壊」の物語である
という書き出しから始まります。いきなりもっともらしい作り話から始まる感じが、なんともいえず良いです。当時はインターネットもなかったので、古文書の発見に関しては、普通に事実として受け取った少年少女もいたのでは、と思います。
中身は、闘いや憎しみの世界の話です。その世界の中で、ニキアス将軍(男)に無理やりさらわれたヘラ(女)が、いつの間にかニキアスのことを好きになっている。この理由が描かれない(一応ニキアスがヘラを守るシーンは描かれてはいますが、多分強い理由ではないのではないかと…。違うかなぁ…?)のがとても良いです。そういうのって理屈じゃないんだよね、ということを言ってくれている感じがします。結末まで読むと、なかなかに皮肉な物語です。
そして本短編集の最後の作品「シャミー1000」。しゃべるネコの話(?)です。シャミー族の1000号だからシャミー1000。シャミーセン。シャミセン。ネコのシャミセン。ずいぶんな題名だと思いませんか?しかし内容にダジャレ感はなく、「愛」にまつわる物語です。
手塚治虫の描く「愛」のお話を読みたい方はぜひ。

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